【テクニカルライティング技術#6 anyを「如何なる…」とばっかり訳していませんか?】
(第0回の記事(上記リンク先)と、シリーズ中の記事の関連記事では、センセーショナルな内容があり得ますのでご注意下さい。
今日の記事では、普段Anyを「如何なる…」とばかり訳していたらちょっともったいないという話です。 Tak石河
でも、anyって大体の場合、「如何なる…」って訳して特段不便は感じないのですが…。 洋平さん
では、anyの上手い使い方について学んでいこう!
アメリカ人同僚 盟友Liam
anyを上手く和訳する方法
実務翻訳の現場から、先ず以下の2つの和訳技術を見ていきたいと思います。
Tak石河
anyの和訳技術(1)わずかでも、すこしでも…
Any change in the a-b operation point X results in waveform distortion at a high level.
普通にany=如何なる、って訳してしまって大丈夫と思うのですが…。
洋平さん
Any change in the a-b operation point X results in waveform distortion at a high level.
a-b動作点Xの如何なる変化は、大きな波形のゆがみを生じさせる。
これでも意味は分かりますが、次のような和訳の方法もチェックしておきましょう。 Tak石河
Any change in the a-b operation point X results in waveform distortion at a high level.
a-b動作点Xがわずかでも変化すると、波形のゆがみが大きく変化する。分かりやすいですね。もともと、この文章で波形のゆがみを大きくさせる(waveform distortion at a high level)ことは、少しでも/わずかにでも変化(any change)することによって起こるということですね。 綾香さん
では、もう1題例文を見てみよう。
アメリカ人同僚 盟友Liam
Any increase in the diameter will increase stiffness. ええと、any increase、だから…。 洋平さん 直径のいかなる増加は、こわさを増加させる。
って訳さずに(笑)、anyをわずかでも/少しでも、と訳してみると…?
綾香さん
直径がわずかでも大きくなると、こわさは増加する。
その通り!!
アメリカ人同僚 盟友Liam
慣れれば簡単ですので、anyを「わずかでも/少しでも」と訳した方がスッキリとする場合には、是非チャレンジしてみて下さいね!
Tak石河
anyの訳出技術(2)~する場合
次に、anyを「~する場合」の意味合いで上手く使う場合を見ていきましょう。
Tak石河
「~する場合」と言うと真っ先に、When/If…, In the case of…などが浮かんできそうですね。 綾香さん
では、anyが「~する場合」の意味合いで使われているのはどんな時か、例を見てみよう! アメリカ人同僚 盟友Liam
Any changes to the product specifications shall be made in writing and agreed to by both parties.
ええと、さっき習ったように、anyを「少しでも/わずかでも」と訳したら…。
洋平さん
製品仕様を少しでも変化させるためには、書面による両者の合意を必要とする。
文意としては間違っていないですね。製品仕様を変化させる時―それが、少しの変化であっても―書面による両者の合意を必要とする、ということです。
ただし、今回の例ではそこまで気負わずに、以下のようにさらっと訳した方がより自然になります。
Tak石河
製品仕様を変更する場合は、書面にて行い、両当事者が合意しなければならない。
なるほど…。何と言うか、この場合はanyよりも、冒頭で綾香さんが言ったWhen/If…, In the case of…(~の場合には)の方がニュアンスとして近そうですね。 洋平さん
その通り、そしてこの例文では、以下のようにして、もっと簡潔な日本語訳に洗練させることができる。
アメリカ人同僚 盟友Liam
製品仕様の変更は、書面による両当事者の合意を必要とする。
会社間の契約文書などでよく見られる表現ですね。 Tak石河
Anyの訳し方が上手くなると、英作にも応用できる
さて、このようにanyを上手く和訳できるようになると、英訳でもうまくanyを使いこなせるようになります。
Tak石河
たまに、「和訳と英訳、どちらを優先させるのが良いですか?」という質問を受けることがあるけど、結論としては「どちらか片一方ではよくない、和訳と英訳の技術を相互に使いこなすのが一番良い」だね!
今回のAnyはその良い例だと思う。
アメリカ人同僚 盟友Liam
でも、やっぱり実感が湧かないです…。 洋平さん
例文をこなして慣れましょう^^;
Tak石河
Anyを使ってうまく英作しよう(1)
割引率を増やすには、大口注文を頂くことが条件です。
ええと、If you want to increase in discount,…かな…。
うーん、anyがうまく使えないなあ…。
洋平さん
「(少しでも)割引率を増やすこと」を、Any increase in discountとすればいいかしら? 綾香さん
良い着想だね!以下が解答例になるよ。 アメリカ人同僚 盟友Liam
Any increase in discount will have to be contingent on a larger order. (割引率を増やすには、大口注文を頂くことが条件です。)
ここも、If you want to increase in discount,…と思わず書いてしまいそうな所(もちろんそれでOKですが)、すっきりと簡潔に英訳することができますね。 Tak石河
Anyを使ってうまく英作しよう(2)
ユーザーによる不適切な操作による機器の故障については保証を無効にします。
うーん、これはそもそものお題が難しい…。自信ないんですけど次でどうでしょうか?
洋平さん
We do not warrant equipment failure caused by abuse by user.
気持ちは非常に分かるのですが、この場合はby abuseとby userとbyが2回重なって、非常に読みづらくなってしまっていますね。
Tak石河
うーんでもどうやって直せばいいのか…。
洋平さん
ポイントとして、後から修飾するだけで苦しくなってくる場合は、前から修飾することを検討してみよう。
この場合、ちょっと難しいけど、「不適切な操作による…」は、maloperation-caused…とハイフン(―)を使えば、簡潔に表現することができる。
アメリカ人同僚 盟友Liam
ハイフン(―)を使った英語表現については、以下の記事をご参考にされて下さいね^^;
Tak石河
…ちょっとTak石河さん?このリンク先のアイキャッチ画像、真面目なテクニカルライティングのコーナーには似つかわしくないんじゃないんですか?縛られたいんですか鎖で?
綾香さん
リンク先に一部のセンセーショナルな表現があるのはどうかご容赦下さい(汗)
Tak石河
では、maloperation-causedとした修正案を見てみよう。
アメリカ人同僚 盟友Liam
We do not warrant maloperation-caused equipment failure the by user.
大分よくなりましたね。
さらに細かい所ですが、この文章にはニュアンスとして、any maloperation-causedとanyを挿入したいですね。するとこうなります。
Tak石河
We do not warrant any maloperation-caused equipment failure done by the user.
なるほどー。 洋平さん
あれ?ひょっとしてこの文章は、Any maloperation-caused equipment failureを主語にすることもできるのかしら?
綾香さん
その通り!無生物主語をうまく使えば、次のようにスッキリ書くことができる。
アメリカ人同僚 盟友Liam
Any maloperation-caused equipment failure done by the user will void the warranty.
最後はちょっと難しかったかもしれませんが、このように無生物主語と組み合わせると、非常に洗練された表現ができますね!
無生物主語については、こちらの記事も参考にしてみて下さい^^;
Tak石河
如何だったでしょうか?
今回の記事は、ちょっとしたコツでしたが、このようにanyを上手く使いこなすと和訳・英訳のレベルが一段とアップするので、是非ご参考にされて下さいね!